睡眠時無呼吸症候群 (Sleep Apnea Syndrome =SAS) とは
眠っている間に呼吸が止まったり、弱くなったりするのを繰り返す病気です。Sleep Apnea Syndromの頭文字を取ってSAS(サス)と呼ばれます。
10秒以上の気流停止(気道の空気の流れが止まった状態)を無呼吸とし、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸です。
寝ている間の無呼吸は気付くことができないため、検査や治療を受けていない多くの潜在患者がいると考えられています。
寝ている間の無呼吸が、起きている時の活動に様々な影響を与え、気付かないうちに日常生活にリスクをもたらすことが、この病気の厄介なところです。無呼吸によって体の中の酸素が減ってしまい、脳も体も充分な休息を取れなくなります。断続的に覚醒したような状態になるため、長時間眠っているつもりでも睡眠が不足して、日中に強い眠気や倦怠感、集中力の低下をもたらします。また、間欠的な低酸素血症と、それに伴う睡眠の分断による交感神経の亢進により、心疾患や脳血管疾患のリスクが上昇してしまいます。高血圧、心不全、不整脈などの合併率が高いことが知られており、糖尿病や脳卒中のリスクも上昇することが示されています。
睡眠時無呼吸症候群を放置する危険性
日中、突然激しい眠気に襲われてしまうため、睡眠時無呼吸症候群が原因となった交通事故が日本でも何度も起きています。睡眠時無呼吸症候群があると、運転中の眠気や居眠り運転の経験割合は、4~5倍になるという調査結果があります。
世界的に報道されるような重大事故も多数あり、社会的な安全という意味からも注目されています。睡眠時無呼吸症候群が事故にどう影響したかが裁判の争点になる例もあります。
循環器疾患や脳血管疾患とも深い関係があることがわかっており、下記のような報告がされています。
心臓病
不整脈の一種である心房細動は、日本でのたくさんの患者さんがいることが知られていますが、睡眠時無呼吸症候群とも関連があることが分かっています。睡眠時無呼吸症候群を合併していると、心房細動の発生リスクが2倍以上になるという報告があります
また、睡眠時無呼吸症候群が重症になるほど動脈硬化が進行するという研究結果があります。心臓に酸素を送る血管である冠動脈が狭窄して経皮的冠動脈インターベンション治療(カテーテル治療)を受けた方の追跡調査で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を合併していると治療後に冠動脈の血流が悪化しやすい傾向があることがわかっています。
脳血管障害
睡眠時無呼吸症候群の重症例では、脳卒中発症リスクが3.3倍にもなることが報告されています。また、昼間活動時の眠気や集中力の低下が、脳卒中後のリハビリテーションを一層困難にし、機能回復に悪影響を及ぼすことも分かっています。
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群の重症度が増すに連れて、糖尿病合併割合が増えることが指摘されています。睡眠時無呼吸症候群があると糖尿病の発症リスクが1.62倍になるという報告があります。
睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の種類
気道の閉塞によって無呼吸や低呼吸が起こる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と、脳からの呼吸指令が出なくなる中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)があります。
閉塞性タイプでは、気道に空気が通る充分なスペースがなくなることで呼吸が止まってしまいます。気道のスペースが狭くなる要因としては、首や喉まわりの脂肪沈着、扁桃肥大、舌根(舌の付け根)・口蓋垂(のどちんこ)・軟口蓋(口腔内上壁後方の軟らかい所)による気道の閉塞があります。
中枢性タイプでは、脳からの呼吸指令が無いために無呼吸が生じるため、気道は開存しています。閉塞性タイプでは気道が狭くなって呼吸がしにくくなるため体は一生懸命呼吸しようとしますが、中枢性タイプでは脳からの指令が無いため呼吸しようという努力が見られません。
睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の症状
睡眠中には、いびきをかく、いびきが止まり大きな呼吸とともに再びいびきをかき始める、呼吸が止まる、何度も目が覚める(お手洗いに起きる)、寝汗をかくなどの症状が見られます。いびきや無呼吸で完全に目が覚めることは少ないため自覚されないこともあります。
起床時には、口が乾いている、頭が痛い、熟眠感が無い、体が重いと感じるなどの症状を伴います。
睡眠の質が大幅に低下するため、昼間に突然襲ってくる強い眠気、集中力低下、倦怠感・疲労感、頭痛、性欲低下、抑うつなどを起こしやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の検査
エプワース眠気尺度
チェックリストを使って眠気を主観的に評価するために、Epworth Sleepiness Scale(ESS エプワース眠気尺度)が広く用いられています。各質問の点数を合計して、11点以上で異常な眠気と判断され、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
時に眠ってしまう 1点
しばしば眠ってしまう 2点
だいたいいつも眠ってしまう 3点
状況 | 点数 | |||
---|---|---|---|---|
1.座って読書中 | 0 | 1 | 2 | 3 |
2.テレビを見ている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
3.人の大勢いる場所(会議や劇場など)で座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
4.他の人の運転する車に、休憩なしで1時間以上乗っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
5.午後に、横になって休憩をとっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
6.座って人と話している時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
7.飲酒をせずに昼食後、静かに座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
8.自分で車を運転中に、渋滞や信号で数分間、止まっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
簡易検査
自宅でも取り扱い可能な検査機器を使って、患者様がご自宅で検査する簡易検査です。検査機器は当院から検査会社を通して貸与します。
手と顔にセンサーを付けて、いつものように就寝します。これで睡眠中の呼吸と酸素濃度を計測、記録します。返却された機器のデータを分析して診断します。
検査結果はAHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)として示されます。これは、1時間当たりの無呼吸や低呼吸の平均回数です。
正常 | 軽症 | 中等度 | 重症 | 最重症 | |
---|---|---|---|---|---|
AHI | 0~5 | 6~20 | 21~30 | 31~50 | 51以上 |
AHIが20以下の場合は、生活習慣の改善やマウスピースなどの治療を検討します。
20~40の場合には、より詳細な検査である終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を受けてから、その結果に合わせた治療を行います。
40~の場合にはCPAP(持続陽圧呼吸療法)による治療をおすすめしています。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
専門の医療機関に1泊入院して調べる詳細な検査です。脳波、眼球運動、呼吸運動、酸素濃度、心電図、いびき、口と鼻の気流、睡眠時の姿勢などを測定して分析し、適した治療法を検討します。
睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の治療
CPAP療法
Continuous Positive Airway Pressureの頭文字を取ってCPAP(シーパップ)と呼ばれます。欧米や日本では睡眠時無呼吸症候群の治療の主流となっている方法です。肺までの空気の通り道である気道が睡眠時に狭窄や閉塞を起こして低呼吸や無呼吸を生じているため、陽圧をかけた空気を送り続けて睡眠中の気道を確保し、気道を開存させておく治療法です。CPAP療法は、ご自宅に専用の器械を導入して、睡眠時にそれにつながったマスクを装着することで持続陽圧呼吸ができるようにします。
ただし、このCPAP療法は、根本的な原因を解消するわけではないため、治療を続けていく必要があります。
マウスピース
睡眠時無呼吸症候群をマウスピースで治療する方法があります。下あごを上あごよりも前方に出すように固定することで気道を広く保つことで無呼吸を防ぎます。軽症の睡眠時無呼吸症候群では一定の効果が期待できるものの、重症では効果が不充分となる可能性が高いため注意が必要です。作製は睡眠時無呼吸症候群の知識があり、マウスピース作製に対応してくれる専門の歯科医に依頼する必要があります。
外科的手術
睡眠時無呼吸症候群の原因が扁桃肥大やアデノイド肥大の場合には、摘出手術が有効な場合があります。軟口蓋の一部を切除する手術法もありますが、効果が不充分な場合や手術部位が瘢痕化して睡眠時無呼吸症候群が再発することがあります。
その他の治療
生活習慣の改善
肥満がある場合は適正体重まで減量し、その体重をキープします。
飲酒後の睡眠は筋肉が弛緩して気道を閉塞しやすいため、飲酒制限も必要です。
また仰向けは気道が塞がりやすいので、横向きで眠るようにします。抱き枕などを使うと姿勢が安定します。
診察の流れ
1問診
自覚症状などの問診を行います。
2簡易検査
ご自宅で就寝時に顔と手にセンサーを付けて眠る簡易検査を行っていただき、睡眠中の呼吸と酸素濃度の結果を分析します。検査機器は検査会社を通してお貸しします。ご返却いただいたのち、データを分析して診断します(結果報告まで2週間程度)。
3結果判定
簡易検査の結果は、AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)で表されます。これは1時間あたりに無呼吸と低呼吸の平均回数を示したものです。
AHI数値 | |
---|---|
20以下 | 経過観察もしくはCPAP療法以外の治療法を検討します |
21~39 | 入院してより詳細に調べる睡眠ポリグラフ検査を受け、その結果を基にCPAP療法の必要性を判断します |
40以上 | CPAP療法の導入が適しています |
4CPAP療法開始
1ヶ月に1回の定期的な受診が必要です。その際に、CPAPの使用状況、血圧や体重の測定などを行います。CPAP療法継続のためには、この毎月1回の受診が必須です。
当院の睡眠時無呼吸症候群治療の特徴
まるこハート内科クリニックは、東邦大学医療センター大森病院の睡眠時無呼吸外来や昭和大学付属東病院の睡眠医療センターと連携し、睡眠時無呼吸症候群の治療を行っています。CPAP療法を受けている患者様も多数通院されており、毎月、CPAP装着率や無呼吸・低呼吸の回数などを記したレポートをお渡ししています。