動脈硬化とは
血管が硬くなって柔軟性が失われている状態です。硬く柔軟性がないということは、血液が送り出される圧力によるダメージを受けやすくなります。動脈硬化は中高年になってから起こるものだと誤解されている人も多いと思いますが、10歳前後から徐々に進行し30歳ごろになると完成された動脈硬化が現れるようになります。
動脈硬化は自覚症状なく進行して、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中などを起こすリスクが高くなってしまいます。高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病によって動脈硬化は進みます。血管の仕組みや働き、動脈硬化の発症や進行の原因などを知ることで、動脈硬化の予防や進行防止に役立てましょう。
血管について
人間の体は、血管を通して血液が酸素や栄養分を全身に運び、二酸化炭素や老廃物を運び出す仕組みとなっています。心臓から全身に血液を届ける血管は動脈です。逆に、全身から血液を心臓に戻すのが静脈です。さらに、身体の末端まで栄養や酸素を届けるのは毛細血管です。
動脈と静脈は外膜・中膜・内膜という3層構造になっていて、動脈の方がやや血管壁が厚くなっています。
血管の内側にある内膜の表面は、内皮細胞という細胞の層に覆われています。この内皮細胞は、血管の拡張、血液中の物質の出入り、血栓の制御など、多くの重要な役割に関与しています。
内膜の外側の中膜は、血管平滑筋細胞などによる層でできており、血管の弾力性(しなやかさ)を保つもととなっています。動脈は心臓から血液が送り出されるときの高い圧力がかかるため、この中膜が静脈よりも厚くなっています。
中膜の外側を囲んでいるのが外膜で、血管の外との物質のやり取りが行われています。
こうした血管のそれぞれの組織がバランスのとれた状態で働くことで、血液は全身へとスムーズに運ばれ、戻ってくるのです。
動脈硬化発症のメカニズム
病理学的には、動脈硬化にはいくつかのタイプが存在しますが、一般的に動脈硬化といった場合は「粥状動脈硬化」を指すことが多いと思われます。「粥状」とは、血管の内膜の中にたまった脂肪物質が「おかゆのようになっている」状態を指すもので、「やわらかいチーズ」や「コーグルト」などにも例えられます。
血管に悪影響を与える高血圧や糖尿病などが刺激となって内皮細胞が障害を受けると、血液中の単球と呼ばれる白血球の1種が内皮細胞にくっつきます。単球は内皮細胞の間に入り込みマクロファージと呼ばれる細胞に変化します。血液中のLDLコレステロールが多いと、血管壁にLDLコレステロールが入り込んで酸化し、毒性があって有害な酸化LDLになります。これを排除しようとマクロファージが酸化LDLを食べることで、脂肪物質がどんどんたまり、内膜が厚くなっていきます。時間経過でマクロファージ自体も壊れていき、やがて「粥状」になっていきます。
血中のLDLコレステロールが多いとこうしたサイクルを繰り返し起こして、マクロファージが死んでできた粥状の脂肪物質の塊=粥腫(プラーク)が内膜部分に沈着し、血管の内側に盛り上がるように形成されます。このプラークの増大により血管が狭窄したり、線維化によって血管が硬くなった状態が動脈硬化です。
プラークが崩れる(崩壊・破綻)ことが原因で血栓が形成され、血栓が血管をふさいでしまう結果、急性心筋梗塞が起こると考えられています。
動脈硬化と高血圧
血管は中を流れる血液の量に合わせて収縮・拡張することで、スムーズな血流を助けています。動脈硬化になると柔軟性がなくなるため自在な伸縮ができなくなって高血圧の発症や進行の原因になります。また、高血圧による血管への過剰な圧力は、動脈硬化自体を進ませます。
さらに動脈硬化が進むと、血流の勢いに耐え切れずに血管が破裂してしまうことがありますし、狭窄や血栓による閉塞などを起こします。破裂や狭窄・閉塞が起こった場所により、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞などを発症することになります。また、高血圧は大動脈瘤や脳動脈瘤の破裂の危険を高めます。
主な原因と予防、進行防止
動脈硬化が起こるきっかけは、血中のLDLコレステロール過剰ですから、脂質異常症の適切な治療によるコントロールは不可欠です。また高血圧も動脈硬化と深い相関関係があるため、解消が重要です。糖尿病、喫煙、肥満、ストレス、加齢なども動脈硬化にかかわっています。これらの中で特に重要なのが高血圧、脂質異常、喫煙です。
高血圧は「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれ、多くは無症状で動脈硬化を進行させ、心筋梗塞などを引き起こします。収縮期血圧(上の血圧)も拡張期血圧(下の血圧)も同じように動脈硬化に影響を与えます。
脂質異常では、LDLコレステロールや中性脂肪が増えると動脈硬化が促進されます。反対に、HDLコレステロールは、減ると動脈が進行することが分かっています。
タバコについて、1日20本以上の喫煙者では心筋梗塞などの虚血性の心臓病が50%以上増加するとされています。タバコの場合、喫煙者本人だけでなく近くにいる受動喫煙者のリスクも増加するため、注意が必要です。
問題をしっかり把握して、動脈硬化の予防、進行防止に努めましょう。